栽培について
おかさげ農園の自然農法
自然農法とは、自然の営みに寄り添い搾取することなく、自然の持っている可能性を最大限に引き出し、人間が生きるための糧を得るもの。そこに持続性が発生し文化が生まれます。振り返れば、それは長く人間が歩んできた道であり、農と言う文化(agri-culture)の本来の姿です。
おかさげ農園が実践する自然農法とは、具体的には、田畑に木や草を循環させ、多様な土壌微生物の生育を促し、微生物の多様なネットワークと作物を共生させる農法のことであり、肥料や農薬を始めとする化学物質を使う必要のない農法です。
以下に、おかさげ農園における栽培原則を示します。
おかさげ農園の栽培原則
- 化学肥料や農薬、除草剤などの人工的に生成された化学物質を栽培に使用しません。
- 家畜の糞尿をはじめとする動物由来の有機物を含む肥料や堆肥を栽培に使用しません。
- 栽培品種は、可能な限り採種できる固定種を中心に栽培します。固定種の中でも特に栽培の歴史の長い伝統品種を大切にします。
固定種に栽培できる適当な品種がない場合、交配種(F1)の利用も否定しませんが、その場合は、雄性不稔技術を用いていない品種であり、かつゲノム編集を含めた遺伝子操作を行っていない品種を用います。 - 種子からの栽培を原則とします。育苗の失敗等で、苗を購入しなければならない場合は、苗の入手経路を明確にします。
- 可能な限り自家採取に務めます。出来るものからコツコツと自家採取しています。
2021年現在、ほうれん草、カブ、ニンジン、ナス類、ピーマン類、トマト類、キュウリ類、かぼちゃ類、えごま、大豆、米などの自家採取を行っています。
おかさげ農園の栽培への想い
01肥料で野菜を育てない
おかさげ農園の栽培の最も特徴的なことは、肥料で野菜を育てないことを基本にしていることです。もちろん育苗などの段階でどうしても必要になれば有機肥料を追肥するようなこともありますが、あくまで肥料は生育を「補う」ものと考えます。
肥料で育てないと言っても、植物の生育に肥料分が不必要だと言うわけではありません。改めたいのは、人間が直接栄養を与えなければ植物が立派に育たないと言う思い込みです。植物は光合成で自ら栄養となる糖の形成が出来るわけですし、窒素を始めとするその他の必要な要素はマイクロバイオームと呼ばれる土壌微生物群と共生することによって得られます。ですから植物が直接吸うための肥料を人間が施すのではなく、微生物が土中にバランスよく多様に存在し、複雑に関係しあうことを目標にします。それは畑の場合、土壌の団粒構造「フカフカの土」として現れます。
施肥をしなくても野菜もお米も十分に育ちます。むしろ施肥することでバランスを崩して病虫害の発生に繋がります。
02おかさげ農園の土づくり
土づくりと言っても、土は人間が作るものではありません。また土壌微生物が作るものでもありません。土壌は様々な粒形の鉱物や有機物の破片などで構成される自然物で、地質や気候などの風土が年月を重ねて醸すものです。土壌の基本的な性質(保肥力など)は、形成された過程において、ある程度決まっており、その性質を植物の生育にとってどこまで有効に高められるのかは、その土壌の構造にかかっています。現在、世界的な穀倉地帯と呼ばれるエリアですら、近代農法の弊害により土壌の砂漠化が進行し、作物栽培が不能になっていることを見れば明らかです。そして土壌構造を変化させる自然の営為は、微生物たちによるものです。土壌微生物は土壌の状態を変化させることができます。カチカチだった土をフワフワに変化させるのは微生物たちの複雑な関係で、微生物の関係性こそ土壌構造です。以上から土壌の状態をより良く変化させるのは土壌微生物であり、人間にできることは土壌生態系を多様に良好に保つための手助けをする、もしくは必要に応じて何もしないことだけです。
基本的には、畑ならば排水性を高めるなどして好気的な環境を維持すると同時に、腐植質やその材料(難分解性の繊維質の有機物)を土壌表層に投入して、土壌中のバイオマス量を増やして、植物の生育を支える菌類や細菌類を始めとする多様な土壌微生物群を養います。土壌生態系が豊かになれば、当然ですが出来るだけ畑を深く起こしたりして破壊したくない。土との付き合いは、状況に応じで徐々にやるべきことが減っていくはずで、どんな土でも土壌微生物の織り成す関係性によって、それなりに良質な土壌となると思います。それなりに。それはあたかも、どんな人間でも、能力の有無や置かれている状況にかかわらず、奮起して懸命に生きることで、より良い人生を切り開いていけることを示唆する、自然界からの、私のような人間に対する励ましのように感じます。
刈り草や木質のチップを敷き、粉砕して漉き込み、土壌に腐植の材料となる繊維質の有機物を供給する。(写真左)
腐植質が十分な畑。糸状菌の白い菌糸が見え隠れし、時にはカブトムシがゴロゴロなんてことも。(写真中央・右)
03おかさげ農園の目指す野菜
作物は、野菜は「製品」である前に「食べ物」であり、食べ物である前に「生き物」です。「生き物は、生態系の連鎖の中で生きている。」と言うフレーズは、現代では事実として、殆どの方に違和感なく、受け入れられていると思います。しかし、現代においても、多くの場合、それは自然環境の中での話であって、野菜は生態系と切り離されて、製品として栽培されることが常識として捉えられています。ついでに言えば、植物だけでなく家畜も、多くの場合そのように扱われています。良質な揃いの良い製品を大量に市場に送り出し、もしエラーが出れば命が製品として大量に廃棄されることすらある。「それは経済システムを維持するための必要悪である」と受け入れる時代に育つ子供たちが、命の大切さを直感的に理解できないのも頷けます。他者の命の尊さに鈍感な者は、結局は己の命の尊さも理解できないでしょう。それは食料として、製品として、市場出荷性の高いものを大量に生産することの弊害です。
おかさげ農園の目指す野菜は、生き物としての生命力に溢れ、健康だからこそ病害虫に負けず美しくしなやかな姿です。古傷ぐらい誰にだってあると、頑張って生きてきた履歴のわかるような野菜が、食べて下さる皆様の心身の糧になると信じます。